母性監獄

(甘い――な)
  口中いっぱいに広がる粘液は、いつか食べたアイスクリームのような味がした。もちろんこんな物は一度とて口にしたことがない。脳に刻ま れた記憶が再生され、誤った再認が成されているだけなのだ。それでも 無意識に舌がかすかに黄濁した液体を舐めしゃぶり、味わってしまう。 それを美味な物だと間違って受け取ってしまう。
  アイスとは正反対の、マグマにも似た灼熱の白い粘液は式のノドを焼 きながら胃へと滑り落ちていった。飲めば飲むほどノドが渇き、胸の奥 で火照りが強くなる。下腹部の疼きも激しくなる一方で、臍の下で今ま では気にも留めなかった器官がキュンキュン収縮を繰り返しているのが イヤと言うほど分かる。そして下着が汗ではない別の液体で濡れ始めているのにも気づいてしまった。
(くそっ……オレの――体じゃ無いみたいだ……!)
  逃げようと体をもがかせたいのだが、いつしかそれも出来なくなっていた。全身に鉛を詰め込まれたかのようで上手く動いてくれないのだ。
――いや、動きたくないのかもしれない。オレはもっとこの液体を味わって、もっと、もっと――
(――何を考えてるんだっ――!)
  自分の思考が信じられない。何でこんなおぞましいことを受け入れようと思っているんだ? なんで? どうして? なぜ?
  答えのでない自問自答。不毛な問いを繰り返している内に、式の肉体はもう抜き差しならぬほどに熟れていた。胃をいっぱいに満たす粘液は全身をこれ以上ないほどまでに燃え上がらせ、頭のてっぺんから足の先までジンジンと甘く痺れてしまっている。
  乳房はいつものサイズより一つ上にまで張りつめていた。元々大和撫子の典型といっても良いお椀型の美乳である。型くずれせずに膨れあがったことで中性的だった印象が薄れ、女としての艶めかしさが強く押し出されて見えた。
  そして秘唇はもはやぐしょぬれといって良い状態になっている。下着はとっくに下着としての用をなさず、自分の奥からわき出してくる甘い、そして淫らな香りのする液体で重くしめっていたのである。ぴっちりと閉じられ、縦一筋だった秘所もいつしかほころび始め、布越しに楕円形の形を透けさせている。その部分を風が通り抜け、ひやりとした感触が股間を襲う度に式の顔が火を噴きそうなほどに赤くなった。
  式は知るす術もなかったが、触手が放つ液体は一種の毒と呼べるモノだった。とびきり淫靡な効能を持った。それもそうだろう。何せこのマンションに魂を幽閉された三十世帯分の生への執着、そして情欲を固めて練り上げたモノなのだから。
  いかに式自身も異形のようなモノとはいえ、器は小娘。ダイレクトな肉欲の集合体に性で攻めてこられてはたまった物ではない。だから、本来は式が恥じるようなことなど何もない。だがそんなことを教えてやる気も、教えてやるだけの能力も『物体』にしかすぎない連中には有りはしなかった。
  彼ら、そして彼女らに出来るのは淡々と目の前の少女を嬲ることだけ。それだけがこの閉じられた輪の世界で与えられた唯一にして絶対の役目。 それに従って肉塊達は新たな行動を起こした。
  触手達が口に続いて新たな目標に選んだ箇所は、淫毒の前にあっさりと決壊した幼げな秘裂――ではなかった。そこから蜜をはき出すたびに連動してきゅうきゅうと力んだりゆるんだりを繰り返している、剥き立ての卵のような美尻にひっそりと隠された小さなつぼみ。
  物も言わせず、容赦もなかった。完全に式の死角に入った触手達が数本まとめて雪崩を打つようにアナルへと潜り込んでくる。
  ぎちぎちぎtぃぃっっ、ぎちゅぅぅっっっ !!
「あぶぅっっっっっっっっっ!! んぶ! おぶ、うぅ―― !」
  反射的にすぼまろうとする肛門括約筋の抵抗など物ともせず、あっという間に排泄穴がペットボトルの飲み口ほどに拡張されてしまった。



――ズブっ。
  一瞬世界が揺らいだように彼女は思った。そして自分が宙に浮いているような奇妙な浮遊感覚。実際、橙子は浮かんでいた。つま先がホールの敷地から数センチ浮遊している。なぜかにじみ始めた視界を少し下げると、自分の腹がふくらみ上がっているのが見えた。白いシャツははじけ飛び、ほっそりした美脚を守っていたスラックスはちぎれて女のもっとも隠すべき箇所がさらけ出されている。
  それほど豊満とも思わない乳房のあたりまでふくらんだ皮の先には、 歪な凹凸が四つ見えた。
  あぁ、これは手の甲か。
  ここに至って彼女は理解した。
  自分は敵の腕に秘所を貫かれ、子宮の奥まで貫き通されてしまったのだ――。
  その事実を認識したとたん、女魔術師の全身に言いようもない感覚がわき起こってきた。
「――ぁ……ふぁ……っ――くぅ――あぁ……!」
  ほとんど無表情に近かった橙子の顔にさぁっと赤みが差し始めた。残酷なまでに怜悧に輝いていた瞳が潤み始め、涙がにじむ。
  女魔術師の全身がカタカタとふるえ始めた。全身の毛穴という毛穴が開き、内から汗が絞り出されてくる。しかしそれは冷や汗などというねっとりしたたぐいの物ではなかった。甘ったるくほの香り、きめの細かい肌を彩るかのようにきらめく珠のようなしずく。橙子の周囲だけが女子校の更衣室のような雰囲気を帯びた。
「ふぁ……ぁぁ……ぉ……っ……」
  殺意に満ちた静謐な空間にこぼれ出す橙子の声は、苦悶のそれではなかった。どこか熱っぽく湿り、普段の彼女ならば――少なくとも眼鏡をかけていない彼女ならば――絶対に出さない音階の響き。アとオの中間程度に開かれた口の端からよだれが一筋こぼれ落ち、ほおを伝ってこぼれ落ちた。
  今の女魔術師の表情は、暗黒すら食らい尽くす人形をも作り上げる『希代の人形師』と言われた時のモノではない。『蒼崎橙子』というメスの顔だ。
(ここまで凄いのは……久しぶり……だな……さすがに――堪らない……)
  魔術の研究を志す物にとって性愛のシステム探求は避けて通れない道である。故に彼女もその行為を幾度となく経験したことがあった。その橙子にしてもこれほどまでに壮絶な性交は初めてだ。
(なるほど……な……子宮の中……か……)
  意外に薄い肉壁をごりごりと拳でえぐられるたびに全身に甘い痺れが走った。子壷全体が熱く燃え上がりじんじんと疼くような感触がたまらなく心地良い。麻酔を打たれたかのように甘く麻痺していくこの器官も間違いなく快感受信器官なのだと言うことを橙子はイヤというほど思い知った。
  肉体が自分の意志と切り離されて勝手にビクリと弓なりにのけぞり返り、結果としてより強く敵の腕を腹の内で感じてしまう。今までに受け入れたどんな肉棒よりも堅く、そしてたくまししい異物は橙子の女としての部分をこれ以上ないほどに刺激した。ささやかな胸の頂きで小さな肉突起が堅くとがってびくびくと切なげに震え、何かにさわられるのを待ち望んでいるかのようだ。その反応は極太を受け入れた股間も同じだった。女性の快感神経がもっとも集中するクリトリスもが勃起しきってい る。
  橙子の全身がひときわ強く震えた。それと共に無惨なまでに拡張された秘唇からプシャッと勢いよく愛液が噴出した。たくましい腕にからみつきながら滴り落ちていく密は白く濁り、全身から放たれる汗などとは比較にならないほど濃い発情臭を放っている。
「くはぁぁぁっ……はぁ……あっっっ―――ぁ! ……ぅ……ぉっ……」
(また……絶頂った――か……。勝手に子宮が締まって……膣が荒耶の腕をもみしぼっている、か。まったく……浅ましいことだ……)

 

小説 :高橋 良喜
イラスト :無望菜志
初版発行 :2007年12月31日(コミックマーケット73)