「まずは呪文を使えない身体にしてやるか……」  そう言うと、サンドマスターは砂で作った触手をシェリルのエナメルグローブに包まれた親指に巻き付けた。そして、問答無用で思いっきり力を込める。ぐきっ! ごきべぎっ、ばぎぃっ!! 「ぎゃぁぁぁあああああっっっっっ!」  シェリルの絶叫がゴーストタウンに響き渡った。華奢な細指はあっさりと巻き付けに屈してしまう。余りにも強烈な圧力は漆黒の魔導師の親指の骨を、粉々に粉砕してしまったのだ。  脳裏で苦痛の爆弾が炸裂し、全身がギクギクと無様にそり返って叫び声が絞り出されてしまう。今までは毛ほども感じなかった手袋が擦れる感触ですら、今では猛烈な締め付けのように痛みをもたらしてくる。まだもぎ取られた方がましなのではないかと言うほどであった。なまじ形を残しているからこそ、なお痛む。 「くけけけっっ! どうだいてぇか、苦しいかぁー? あぁ? 王国最強の魔導師にして軍師様よ、泣いてお願いすればひと思いに殺してやってもいいぜ? げはははあ!!」  サンドマンがシェリルの赤毛をつかみ、顔を上げさせる。気高く、どんな魔物と戦っても決して負けたことはない魔法の使い手。そして魔王軍を散々苦しめた女軍師の無様な泣き顔を拝めると期待していたのだ。だが、その期待は裏切られる。  ぷっ。 「……あぁ?」  引き上げられたシェリルの顔は、痛みに歪み涙をこぼしてはいた物の、負け犬のそれではなかった。魔物につばを吐きかけると、 「くたばりなさい、下等な魔族めが……! 自分で死ねないなら私が殺してやるから、今すぐに手を離せ!」  と言ってのけたのだ。 (今は時間を稼ぐしかない……。私はもうダメかも知れないけど、時間さえあれば援軍が街の人々を解放してくれるはず……)  強気の裏に隠されていたのは、シェリルの悲壮な覚悟だった。自分が責められている間は町の人に危害が加えられることはあるまい。どうなろうとも、国民は助けなければ……。王国騎士として、魔導師として姫将軍に誓ったのだから。  そんなシェリルの悲壮な思いを込めた時間稼ぎの策は、少々頭の足りない魔将軍には効き過ぎたようだった。あからさまに憤怒の表情を漂わせたサンドマンは、 「……よーっくわかったぜ。優しく殺してやろうと思ったけどやめだ。おめえはじっくりなぶり殺しにしてやる」  というと、シェリルの人差し指に触手を巻き付けた。そして、ひと思いに粉砕する。  ごぎぎぎぎぎっっっっ、べぎばぎぃぃっっっ!! 「んぐぎゃぁぁああああああっっっっ!?」  先ほどと全く同じ流れでへし折られたはずなのに、痛みは数十倍も上だった。手指が全て激痛を訴え、息をするだけでも胸を突き刺されそうなほどの苦痛が脳天に突き刺さる。(ゆびっ、ゆびぃぃぃっっっがぁっ、こなっ、こなごなっ……!)  そう、サンドマンは己の名が示すとおりシェリルの指の骨を砂状になるまで砕き尽くしたのである。そして、それは当然残りの三本にも待ち受けている仕打ちであった。 「激痛で死んでくれるなよ、この先の楽しみが薄くなっちまう」 「や、やめっ、やめっ」  べぎぃっ!! ごぎぃっ、ぎょりぎょりぎょりっ、ぼぎっ!!  シェリルの半狂乱な叫びも嗜虐心に酔った魔将軍には届かない。中指、薬指、小指。シェリルの骨が砕ける瞬間と、絶叫の声を楽しみながら指を折り曲げていった。 「あがぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっ!!!」  全ての指が人間の関節では絶対に無理な方向へねじ曲げられるのにそう時間はいらなかった。  エナメルグローブに包まれた美しい指が、全く無秩序に折れ曲がった無惨なオブジェと化した。そうなった指はもはや痛みしか伝えてこず、ちょっと動くだけでも心臓が止まりそうなほどの激痛が脳を打ちのめす。こんなにまで痛いのならもういっそ切り落とされた方がましなのではないかと思うほどである。 「あぁぁぁああああああああおおおおおおおおっっっっっっっ!!!」  もう絶叫しか上げることが出来ない。半ば目は白目を剥き、全身は系統だって動いてくれないのだ。 (ま……まじゅ……つ……かいろでの……ちゆはむり……しんけいしゃだんも……あぐっっっっ、できな……)  最強の魔導師と謳われたシェリルはその身に強化魔術を施していた。肉体がピンチに陥ると、自動的に神経回路を遮断して脳死を防ごうとする。だが、今回はそれが中途半端に作用した。常人ならば即死できる苦痛でも、彼女は生き残れてしまうのだ。  だが、それでもまだ地獄の入り口に入ってすらいない。 「いーぃ叫び声だぜぇ軍師様? じゃぁ、第二楽章を始めるとしようか」  地獄の指揮者は今度は左指に触手を巻き付けたのである。それも五本一度だ。 「あひっっっっ!? ひゃだっ、ひゃめ、ひゃめへ!! いひゃ、い……ひぎゃ……っっっっっ――!!」  ばぎぼぎべぎばぎぃごぎっっっっっっ!!  シェリルの無様な哀願が終わる前にサンドマンは演奏を始めた。今まで以上の力でグローブに包まれた指をひねり上げた触手は、一瞬で指を指だった物に作り替えてしまう。炎髪の軍師が叫んでいられたのは折られる一瞬前までだった。そこから先は吹き荒れる猛烈な激痛の嵐に言葉にも、声にも鳴らなかった。ただ口をパクパクと開閉させ、全身を苦痛のあまりに痙攣させることしかできない。  脳細胞という脳細胞、そして神経という神経が痛みを訴えてくる。頭が壮絶なまでの激痛信号で焼き切れそうだ。事実、シェリルは数度ほど失神していた。しかし、その度に激痛の度に意識を蘇らせられてしまう。恒常的に気を失うことすらも許されないのだ。 「ぁ――っが……ぁ――ぉ、ぉぁぁ……!」  痛みだけが延々と続くという、まさに生き地獄。魔導師として鍛えられた肉体と精神がこんな作用をもたらすとは思っても見なかったろう。 (いたいいたいいたいたいぃぃぃぃっっっっっ!! いたぁあああああああああ)  頭の中でその言葉だけがリフレインする。もう魔法はもちろん、まともな事を考えるだけの余裕もありはしなかった。  それでも、まさに悪意を体現する魔族の責めは終わらない。 「指だけ折ったんじゃ不公平ってもんだろ? 次はこっちだぜ」  砂色の触手が漆黒の手袋に包まれた両腕と二の腕に巻き付いていく。 「――ぁ……が――」  たどる運命はもう分かっていた。 (もう……りゃめ……か……)  シェリルの脳裏に絶望が浮かんだ瞬間。壮絶な音が体内で響いた。  ぼっぎぃぃべぎばぎがびばぎっっっっっ!! 「ぐぇ……!」  還るが踏みつぶされるようなうめき声を上げるのが精一杯だった。両腕が苦痛の固まりに変わった瞬間、頭の中が真っ黒に埋め尽くされて言葉が消し飛んでしまったのである。余りにも非常識で、想像もしたことがない痛みにどうにも反応が出来ない。ただ舌を突きだし、ガクガクと震えて背骨も折れよとばかりにのけぞり還ることしかできないのだ。  そうやって肉体が勝手に動くだけでも完膚無きまでにへし折られた両腕が動き、エナメルグローブと擦れてまた同じくラスの激痛が訪れる。永遠に終わらない激痛の無限連鎖だ。(しねぇぇ……しねぇ……ない……まら……しねぇぇえ……)  それでも最強の魔導師は死ねない。死ぬことを許してくれない。ギリギリまで生き延び、戦い続けるための魔術がこんなに呪わしいと思ったのは初めてだった。 「まだしなねぇのか、こいつぁいいな。久しぶりに生きた人間をヤれるぜ。何分両腕をへし折っただけで死んじまうからなぁ、ひ弱な奴らはよ」  そう言ったサンドマンの股間からは、隆々たるイチモツがそそり立っていた。砂で出来たそれは、長さはシェリルの身長ほど、太さは胴回りほどもあるようだった。表面は砂だけあってヤスリのようにざらざらしており、その上所々には石も混ざっているようだった。イチモツ、と言うよりはゴーレムが持っている棍棒の方が近いのではないかと思えるぐらいだ。  そんな常識外の剛棒がシェリルのレザーレオタードに覆われた股間に押し当てられた。痛みににじみ、激痛のあまりにかすむ視界の端にその光景が写る。 「あが……ぁ……ぐ……」  ねじ曲がった両腕を必死の思いで動かし、最悪の事態を避けようと試みるが、涙ぐましい努力も全くの無駄に終わった。 「俺様のイチモツを味わいな、淫乱軍師様よ」  めぎぃっ!! ぐりぐりぐりぃ……ばきりっ! ごずんっっっっっっっっっ!! 「げはぁっ――!!!!!!」  シェリルの全身が地震に見舞われたかのように大きく揺れた。黒い布に包まれたなだらかな腹部がボコリと山のように膨れあがり、乳房の上までに達した。 「あがぁぁあああぁぁぁああ……っっっっっっっがぁ……」  敏感な膣襞は粒の細かい砂でずたずたに引き裂かれ、さらに痛みを倍増させるかのように傷口に入り込んでいく。一ミリでも擦れるだけで、腕が両腕まとめてへし折られたとき並の激痛が襲いかかってくる。  股関節は余りにも巨大すぎる質量をねじ込まれたためか完全に砕けていた。支えを無くした両脚がぶらりと垂れ下がる。思わず失禁した透明な尿が漆黒のブーツを伝ってこぼれ落ちていく様は哀れとしか言いようがない。 (……も……ら……も……)  意識が塗りつぶされていく。感じる物全てが痛みで、考えること全てが苦痛のこと。それでも、ほんの一瞬だけ違うことを考えられたのはどうしてだろうか。 (……姫……ひゃま……どうが……御武運……ぉ……)  だが、今際の際の走馬燈さえ彼女には許されなかった。  ごずんっ! どずんっ、ごんっ、びきっ、ぼずんっ!!! 「ぐはぇっ! うげぇぇっっっ、おぐぅっっ、おぁあっっ!!」  サンドマンのピストン運動が始まったのである。  一突き目で骨盤が砕け、二突き目で腰骨が砕けた。一発一発が天空から地面へとたたき落とされるような強烈な衝撃を伴い、シェリルの全身を内側から粉々に砕いていく。全身の骨という骨がヒビいっていき、背骨までもが粉砕されたのは十度目の挿入の時であった。  ――シェリルが文字通り命がけで稼いだ時間で、王国の騎士団が到着する。彼女が敬愛した姫騎士に率いられた一団が見た物は無惨極まりない光景。陵辱の末に惨殺された無数の街人のすがた。そして。 「――シェリル……」  彼女が信頼した軍師の変わり果てた姿。両腕はまるで奇妙な踊りのように折れ曲がり、両脚もそれと同じくして二度と閉じることは出来ないであろう形になっていた。そして、腹部に詰め込まれた大量の砂がシェリルの美しかった肉体を無様に膨れあがらせているのだ。しかも死してなお安らぎをあたえんとばかりに、砂の中には無数のサンドワームが潜り込んでいるようだった。 「……」  姫騎士は一瞬黙祷すると、馬につけた幅広の大剣でシェリルの首を切り落とす。 「安らかにお眠りなさい……。あなたの屍に誓いましょう。魔王軍に属するクズ共を一匹残らず葬ってみせる、と……」  そう誓った姫騎士の瞳には、誰にも見せたことのない涙が一筋光っていた。